押尾学の裁判員裁判

東京地裁押尾学裁判員裁判にて懲役6年の求刑に対し、同2年6月の実刑判決を言い渡しました。被告人はMDMAを一緒に使用した女性を死亡させた事件において、保護責任者遺棄致死などの罪で起訴され、懲役6年の求刑を受けました。判決では、救急車を呼ばずに女性を放置した行為が保護責任者遺棄罪にあたるとした一方で、119番通報して適切な処置をしても「救命の可能性」について「確実に命を救えたとは立証されていない」として、致死罪の成立は認定しませんでした。
 

6人の裁判員は期間中、極めて真摯(しんし)に証言や証拠を吟味したことが判決文や記者会見からうかがえる。被告が有名芸能人のため公判前から大きく報道され、それが心証形成に大きく影響する点を心配する声もあったが、杞憂(きゆう)だった。その意味も小さくない。(2010.9.19産経新聞


裁判員裁判は、一般の市民が関与しますので、報道に大きく影響を受けてしまい、従来の専門家のみによる公判とは異なる結果になるのではないかと予想しておりましたが、本件では保護責任者遺棄罪にはなるが、「救命の可能性」について「立証されていない」として、致死罪の成立は認定しないという専門家だけでも難しいような判断を出しており、お見事と思いました。
押尾事件は即日控訴とのことでもあり、その今後の展望についても気になりますが、ここでは個別事件の見通しではなく、裁判員制度の今後について一言。
先日、元高裁判事の方に裁判員裁判のご感想をお聞きしたところ、「想定以上の成果」とおっしゃっておられました。法曹関係者からは、裁判員をお勤めになられた市民の皆様に賞賛する声が多いと見受けられます。
裁判員導入のひとつの目的であった一般の市民感覚の導入は大成功、法曹専門家側にも良い緊張感も見られ、制度としてはうまく行っていると思います。しかし、長い拘束時間や裁判後の守秘義務が継続するなど裁判員に選ばれた方の負担は、想像以上に重いのではないでしょうか。個人に過度に負担がかかる制度では先々うまく行きません。日程面や義務負担などを軽くするための配慮を行っていくことが、今後の裁判員制度定着のカギでしょう。

刑事訴訟法

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